時の話題 「美輪さんの教え」
「時の経つのが速いと思うのは人生というものが分かってきたからだ」と英国の小説家ギッシングは語る。「わかってきた」というのは何を指すのか。偉人なのだろうが筆者にはとんと理解することができない。
時が速いということには異論はないが、人生がわかってきたというのは自らが得心しただけで他の多くの人間には通じない。現にあと4カ月ほどで72歳になる筆者には分かってきたどころか迷いの藪の中にある心地がしている。
ギッシングが46年間生きた中で到達した境地なのだが、一般人には無理な話だ。四十にして惑わずどころか還暦(60歳)を過ぎても古希(70歳)を超えても無理なことこの上ない。
異質の存在だった美輪明宏さんが91歳で逝ってしまった。14年前のNHKの紅白歌合戦に出場し歌った「ヨイトマケの唄」は意味が分からずとも感動した。ヨイトマケは工事現場で働き力仕事する人の事を歌ったもので美輪さんが小学生の頃の学友の母親がモデルだったと29日の朝日新聞「天声人語」で紹介している。
この母親が授業参観に赴き息子の鼻水を吸い出す光景を見た時の衝撃と、息子がいじめられた時の「ケンカが強いから偉いんじゃなかとよ。金持ちだからって偉かじゃなか」との級友の母親の生き方と自らの体験が「ヨイトマケの唄」に凝縮されていた。
正常も異質もエリアもなく今あるのが世の中だと訴えるかのような美輪さんの心情を紅白から14年経ち少し分かってきたような気をしている。


